ARTOColors. - 中山 佳奈子 -

『職人とお客様を結ぶ色』をテーマに運営しているARTOCUには、既存の色名では表現しきれない、個性豊かな色があります。そして、その色を染め上げる職人たちもまた、十人十色。

そんな彼らの”色”を引き出すインタビュー企画
『ARTOColors.』

今回お話を聞く職人は中山 佳奈子さん。色に対する想い入れを語るなか、『なんだか泣きそうになっているんですが……』との発言飛び出すインタビューに。プロフィールには書ききれないその想いを、深掘りします。

ぜひ、ごゆっくりお楽しみください。

“イロ”というネジに出会って

職人 :  中山 佳奈子


1.違和感の幼少期

-幼少期はどのようなお子さんでしたか?

子どもの頃からネジが一本抜けてる子でした。成長の過程で補われてはいますが、今も結構抜けています。笑
昔からぼーっとしてて忘れ物しがちで、先生からは「みんなと同じことができない」と怒られて……。友だちはいましたが浮いてる子で、それがずっとコンプレックスでした。その頃から絵を描いたり、図工の時間が好きで、中学生の頃は美術部に入っていたので、大学は美大へ入ってみようかな、と軽い気持ちで決めました。受験は思った以上に大変でしたが、美大進学が今、さまざまなことに繋がってるので、決めて良かったです。


-美大での学生生活はいかがでしたか?

美大はわりとみんなネジが一本抜けているんですよね。波長が合うというか、自分と似たような感じの人が多くて。『自分ってなんかポンコツだな、ネジが一本抜けててぼーっとしてる人間だな』と違和感を抱いてきた自分を受け入れてくれる場所でした。『ものづくりの世界は自分に合ってる世界なのかな』と感じましたね。また、ひたすらものづくりをする中で、自分が良いと思ったものを作ることがとても気持ち良くて、楽しいな、と思えました。作っている途中で『つまんないな』と思うと周りの反応もイマイチですが、気持良く作ったものは見てくれる人の反応も良いんです。自分の気持ちは作品に出るんだな、と感じましたし、その感覚が独特で楽しかったです。

-美大ではどのようなことを学びましたか?

専攻はテキスタイル科という、布を染める学科でした。美大受験のアトリエで、先生から色使いを褒めてもらえたことが糧になっていて。絵の具を選んだり、色と色の組み合わせを考えたりするのがすごく楽しくて、受験の時からとにかく”色”が好きだったんですよね。「色合わせならテキスタイル科だよ」と教えてもらったのがきっかけで専攻を決めました。本当はテキスタイルデザインもいいなと思ったんですけど、美大は才能ある人が多すぎて……やっぱり、びっくりするくらいすごい人も集まってくるんですよね。そんなすごい人たちの中で、作品を作って評価されることがトラウマになってしまって。自分は勝てない、怖い……と。でも「色」や「布」に関係する仕事は諦めたくなかったので、作業の方向で携わろう、と切り替えました。

2.色の世界へ

-ご卒業後のあゆみを教えてください

シルクスクリーン捺染という技法の染めを行う工場に就職して、職人さんの作業に触れながら、本格的な学びを始めました。

-シルクスクリーン捺染の工場、というのはどのようなことをするお仕事なのでしょうか?

ハンカチなどに使う布を染色する工場です。横浜って、スカーフが有名なんですよね。港町なので、仕入れたシルクをハンカチにして輸出する産業が発展したんです。とはいえ高級品なので今は使う人も少なくなってきていますが、かつてはそのための染色工場が多かったそうです。私が就職した工場も昔はシルクの高級なハンカチを染めていたそうですが、入社した頃にはもう手ぬぐいや綿ハンカチなどの服地を中心に染めていましたね。

-yuhakuに出会ったきっかけは?

前職はもともとマイナーな産業ではあったのですが、コロナが流行してからどんどん仕事がなくなっていって。転職しようかな、と求人情報を見ていました。その時にyuhakuの『染色』というワードを見て、『ここだ!ここしかない!』とピンときたんです。それまでyuhakuのことを知らなかったんですが、実際に面接にきてみたら高級感のある商品が多くて……、ダメかもしれないな、と思いながらも面接を受けたら採用していただけました。

-yuhakuにきてから1年だそうですね。1年間、いかがでしたか?

色を扱いながら手を動かす作業が続けられて、毎日楽しくやっています。前の会社は6年くらい勤めたのでマンネリもありましたが、今は『色を扱う』という共通項以外は全然違うので、ワクワクしながらもまだまだ勉強中です。入社したばかりの頃、おざきさんや先輩方がやっていて『かっこいいな』と思っていた作業に今は自分が入れていて、やっとyuhakuの一員になれたな、と感じています。簡単な作業にはじまって、この1年間、本当に色々と学んで、頑張ったな、と。

-yuhakuの染色ではどのような点にこだわっていますか?

ものづくりの時と同じで、自分が染めていて気持良い感覚は大事にしています。それから、自分はたくさん染めていてもお客様にとっては1点モノなので、自分がこの1点を買ったらどう思うだろう?という気持ちで、想いを込めて染めています。なのでa oさんのインタビューを読んで共感しました。表現的なところで言えば手の跡が残っている方が好きですね。不器用なタイプなので綺麗に染められない、というのもあるのですが。笑
おざきさんやa oさんから「ボコボコした感じが大事」と教わったので、綺麗すぎるよりもボコボコした感じがあると気持ちいいなあ、と思います。(ボコボコ=グラデーションのモヤ感のこと)
入社したばかりの頃に染めていたボコボコと、今の自分があえてやっているボコボコが全然違っていて、技術が身についてきた証拠かなと思っています。


-2社経験されて、『職人の世界』はいかがですか?

前職は本当に、皆さんが想像されるような昔気質の職人の世界でしたね。歴史ある染色方法なので昔から業界を知っているおじさんがいっぱいいて、新しいことを提案すると即却下されていました。yuhakuは社長が一代で築き上げているので、革の可能性を一緒に見出していく感じが新鮮です。技術は向上させつつ最新の手法も入れていくような……。やっぱり上が違うと同じ「職人」呼びでも全然違うんだな、と思います。だからyuhakuに入ってからはたまに「そういえば自分、職人なんだ」ってハッとなりますね。それくらい違います。笑

3.「びっくり」をカタチに



-アルトカでの制作はいかがですか?

先日、ようやく注文をいただけたのですが学生時代のトラウマがまだ残っていて、人から評価されるんだと思うとやっぱりちょっと怖かったですね。でも注文をいただけたのは嬉しかったので、『期待に応えられるものを作ろう』という良いプレッシャーを久しぶりに感じました。絵はたまに描いたりしてましたが、子供を産んだりして作品作りからは長く離れていたので、ものづくりの感覚を思い出させてくれるありがたい機会でした。

-『夢』の制作について教えてください

yuhakuに入って初めてヌメ革の経年変化を見たとき、いいなと思ったんです。染色室には色々なヌメ革があるんですよね。日焼けしているものがあれば真っ白なものも、本当に色々。商品の経年変化は見たことがありましたが、ヌメそのものの経年変化は目にする機会が少ないので、これに色が乗って変化が起こるんだ、という発見が面白かったんです。制作にあたって、色の部分とヌメの部分が両方あると2つの変化を楽しめていいかなと思い、ヌメを残しつつグレーの中に色々な色が見えるデザインにしました。やっぱり自分は色が好きなので、全然違う色同士が重なってできるグレーって綺麗だと思うんですよね。作品を改めて見たときに、『夢っぽいな』と思いました。夢ってへんな夢を見ることが多いし、時々めっちゃカオスですよね。色が重なりあってぼやっとした様子もカオスな感じが出てるな、と思って『夢』と名付けました。

-作品づくりはどのようなものからインスピレーションを受けていますか?

美術館に行くのがすごく好きなんですが、私が好きな作品って、結構どぎつい作品が多いんですよね。「びっくり」とか「何これ」に感動するタイプで、人をそういう気持ちにさせたい、という気持ちが昔からあるんです。自分好みの作家さんを見ると「こういうの作りたい!」「人をこういう気持ちにさせるものを作りたい!」と興奮してくるので、それを自分の中で消化していく感じです。なので人の作ったもの、すでにあるものからすごくインスピレーションを受けています。

-好きな作家さんについて教えてください

本当に色々なアーティストに感動させられてきているので紹介しきれないんですけど、その中でも特に「びっくり」を感じたのは横尾忠則ですね。あとは「不気味」も好きなので、楳図かずお、有元利夫も作品を見てはすごくいい!と感じます。それから、作家さんの考え方に感動することもあります。たとえばアンディ・ウォーホルは、作品は普通に見えるけどびっくりするコンセプトで作ってるな、とか……。自分が思いも寄らないものを目にした時にこんな構図があるんだ、色使いがあるんだ、コンセプトがあるんだってびっくりして、ドキドキするんですよね。新しい扉が開いた感じがして、自分では絶対に思いつかないような方向に『こんな扉があったんだ!』とすごく感動するんです。

-アートが本当にお好きなんですね……!

美術館オタクなんですよね。笑
いいアイデアが浮かばなくても3つ4つ美術館を巡ると自分がハッと思うものに出会えるんです。何を見るよりも好きな作家さんの絵を見ると心が動くので、絵に対して『絶対に感動を与えてくれる』という確信があるんですよね。そうして、『絵を描く』という表現だけで人をこんな気持ちにさせるなんてすごいな、自分もこういうことできないかな、と思うんです。絵って、たとえ抽象的な表現でもちゃんとコンセプトが伝わってくるし、深く感動したり、大きく衝撃を受けたりする。まずそれがすごいことだと思いますし、見る人が
受け取っていること、感じていることって、作者の考えていることの10%くらいだと思っているので、心を動かされるたび、『この人が考えていることは、本当はどのくらいすごいんだろう』と想像しては圧倒されて……そういう意味でも、絵からパワーをもらえるんです。

4.イロをパワーに


-中山さんにとって「色」とは

これ、私にとってはすごく大事な質問なんですよね。本気でものづくりを目指したのが高校2年生で、美大受験のアトリエに入ったんです。その頃から色との付き合いが始まっているんですよね。“ネジが抜けた子ども”が、色のおかげで美大に進んで、似た仲間に出会えて……、すごく楽しい人生を歩ませてもらってるんです。人に褒められて自信を持てたのも色使いだったし、そのおかげでものづくりや仕事をしてきた。美大にいたから、yuhakuに入れてもらえたところもあります。なので色にはめちゃくちゃ感謝しています。色と出会ってから本当に人生が良い方に良い方に進んで行ったな、というのを日々感じていて。自分自身の心を豊かにしてくれて、人との繋がりを作ってくれて……。本当になんて言ったらいいんだろう……、なんだかちょっと泣きそうになっているんですが、とにかく、幸せに導いてくれたな、ということを、色にはすごく感じているんです。

-今後、ARTOCUをどのような場所にしていきたいですか?

美術館へ行った時のように、1人1人の作品から感動したり、力をもらえる場所になったらいいな、と思います。
自分自身はものづくりを再開したばかりなので、自分の作品にこれまで見てきた作家さんたちほどのパワーはまだないな、という感じではあるのですが。これからちょっとずつでも人をびっくりさせたり感動させたり、パワーのあるものを作っていけたらいいな、と思っています。また、それをアイテムとして持ち歩けるのがARTOCUの良いところだと思います。なので自分も感動したいし、人も感動させられる場にしていきたいです。


 

 ARTOColors.
- Color is in the eye of the beholder -

 

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

いかがでしたか?
今回は染色職人 中山 佳奈子 の『イロとの出逢い』を深掘りするインタビューでした。
今後もARTOColors.では職人たちの持つさまざまな”色”をお届けしていきます。
次回もお楽しみに。

 

お客様と職人を結ぶ色が、暮らしを豊かにする
ARTOCU