ARTOColors. -トミモリ-

『職人とお客様を結ぶ色』をテーマに運営しているARTOCUには、既存の色名では表現しきれない、個性豊かな色があります。そして、その色を染め上げる職人たちもまた、十人十色。

そんな彼らの”色”を引き出すインタビュー企画
『ARTOColors.』

今回お話を聞く職人はトミモリさん。寡黙な職人さん……、と、見せかけて実はユニークな世界観を持っているトミモリさん。独特なペースで語られるモノづくりへの奥深いこだわりを、ARTOCU運営チームが深掘りしてきました。

ぜひ、ごゆっくりお楽しみください。


芸術は、『モヤモヤ』だ。


職人 トミモリ


1.いざ、「こだわりの道」へ

 



-幼少期はどのようなお子さんでしたか?

すごい元気で目立ちたがり屋だったので、自分からガンガン手をあげて学級委員長なんかもやってました。それが全部、大人になってからは真逆になっています。あんまり目立ちすぎて変な感じになることもあったので、目立たない方がいいかな……と勉強したのかもしれません。今は静かに生きようかなと。笑

-ものづくりを意識されたのは、いつ頃からでしょうか?

小学校の頃から図工が大好きで、高校生の頃にはものづくりの道に進もうと決めていました。その頃は友達と毎日のように古着屋やフリマに行って服のリメイクをやったりして、デザイナーになろうかなと思ったこともありました。ただ、デザイナーって全部指示しなきゃいけなくて、全部の責任が乗っかってくる感じがして、これは自分にはできないな、と思ってやめたんです。 でもなんかこだわりが強いし、たとえば何かがちょっとでもずれてるとすごい嫌だったから、めっちゃこだわれる道ってないかなと考えてました。
22、3ぐらいの時にたまたま靴雑誌の『靴読本』を読んで、靴職人という職業を知りました。 靴が好きだったし、こだわれるし、一人で全部やれるのでこれはいいなと思って、そこから靴職人を目指したんです。お金を貯めて埼玉の靴の学校へ行ってから、7年以上靴作りに携わりました。リーガルのミシンを2年くらいやって、その後、オーダーシューズの会社に7年、そしてyuhakuという感じです。


-yuhakuに転職したきっかけは?

コロナで会社が傾いて、どんどん仕事が減るし、人もいなくなっていって、規模が目に見えて縮小していきました。そこで新しい職場を探さなければ、と思って見つけた感じですね。当時その会社ではパティーヌ仕上げと呼ばれる靴の染色を3年ほど手がけていました。自分が靴職人を目指したきっかけになった靴がパティーヌだったので、社長に提案してみたら採用されたんです。そうした繋がりもあって、革業界の中でも染色をやっていて革靴の取り扱いもあるyuhakuは勉強になるな、と思えました。

2.THE 職人ワールド

 


-職人歴10年のトミモリさん。ぜひ、『職人の世界』について教えてください

職人の世界は厳しくないとダメで、リーガルのミシンをやっていたところはTHE職人の世界でしたね。これはダメだ、とはっきり言うし、もちろん自分もちゃんとやる。「ミシンのステッチを気持ちよせてくれ」とか言うその「気持ち」が0.5ミリとかの単位で、それくらいの厳密さが職人だなと思いますね。 正直、普通に見たら80点で良く見えるものでも、職人同士だと100点になるまで言及する。yuhakuも基準が厳密で修正がすごく細かいので、やっぱり職人だな、と思います。

-染色は数値化が難しいと思いますが、どのようなところに厳密さがありますか?

まず、傷に対してかなり細かいです。一般的な革業界は味として捉えるものも、yuhakuでは傷として捉えて処置しています。おそらく、最も厳しいお客様に合わせて基準を設けていて、それがクオリティを上げていることにもなると思いますが、あまりにも気にしてしまうと必要以上に時間がかかったりもするので、どこに合わせるのが正しいのかな、と悩んだりします。グラデーションに関しては、もう少し手を加えたら良くなるから、と言う注意が細かいです。正直、見る人はわかるのかな?と思うこともあります。笑
先輩方は目の定規が完成してるから違和感をパッと見つけてくれるんですが、自分ではわからないからしばらくは手探りでやってました。最近やっと、自分の中でも目の定規ができてきたので、先輩たちの言ってる意味がわかるようになってきました。これまでもらってきた色んな人のアドバイスが繋がった感じがします。自分の中に6人くらいお手本がいて、みんなこうやってたな、と言うのを思い浮かべたりして。


-染めを行う上でのこだわりはありますか?

開眼したてなのでなんとも言えないのですが、自分でやっていて楽しくて納得のいく染めにこだわっています。yuhakuではムラ感のあるグラデーションを表現するので、「靄を作ってください」とよく言われます。有機的な表情を出すために、あまりなめらかすぎてもよくないんです。でも、自分はなめらかな感じが好きで、ちょっとpipinさんに寄ってるな、と感じたりします。とはいえ程よく有機的な感じも出しているので、その加減が自分の染めなのかな、と思えるようになってきました。

-ひとことで「染色」と言っても人それぞれスタイルがあるんですね

どこにこだわるか、というので結構違いが出ますね。たとえばaoさんは合格ラインギリギリを攻めていてスピードがとても速いんですよ。90点が合格ラインだとしたら93点くらいを絶妙に狙って、スピードが120点、みたいな。でも、今の自分は完成度で100点を目指したいんですよね。100点をずっとやっていれば、スピードを出しても基準は下がりづらいと思います。それはこれまで学んできた職人仕事全てに共通していて、初めはどこもめっちゃ厳しくて、めっちゃ細かいんですよ。おかげでベースが固まるので、そのうちスピードを上げてもクオリティの平均点は下がりません。今の自分が、みんなの役に立つためにもっとスピードを上げよう、となると、基準の低いものを手がけていることに気づかずに、後で直す……なんてことになると思います。だから今は自分の納得の染めをやることにこだわって、もっと慣れてきたらスピードとのバランスを調整したいと思います。基礎の部分を固めて根っこを張るというか……その作業は大事なので、今はそれをやっている感じですかね。

3.独自のインスピレーション、キーワードは"モヤモヤ"?!

 



-『アルケー』の制作について教えてください

yuhakuは青が人気なので、染色室にいると、どこにでも青の染めがあるんですよ。そうやって目の端に映った色や無意識で目に入ったものが頭の中でずっともやもやしながら残っていて、それが綺麗で、宇宙っぽいなと思ったのがきっかけです。

-制作する上で、どのような点にこだわりましたか?

宇宙感を出す、ということですかね。宇宙を感じてもらえるようなもやもやを出すのってすごく大変で、「これがダメなのかな」とか「ここがいいのかな」とかを納得できるまでずっと考え続けるので、頭をすごく使います。今は制作済みのサンプルを目安にやりますが、それでも仕上がりは一つ一つ違います。革はそれぞれ個性があって、同じような手順で染めても同じものにはならないようになっています。個性と対話しながら、革ってすごいな、奥が深いなとつくづく感じています。


-普段の作品づくりはどのようなものからインスピレーションを得ていますか?

ARTOCUの場合は色……紺色からですかね。寂しい感じが良いんですよね。紺色で綺麗なものを見ると脳が喜んで、頭に残っているんです。記憶に残ったものって本物なので、それは信用していいかな、と感じています。熱しやすく冷めやすいので、穏やかにして残ったものだけを形にするようにしてます。なんか気づいたら見たものがもやもやしてるんですよ、頭の中で。穏やかにして寝かせているうちに、そのもやもやから色々なことが連想されて、吐き出したくなってくるんですよね。 今は天然石の「ラピスラズリ」をモチーフに制作を進めていますが、あの紺と金の点々を表現してみたい。……と、思って2ヶ月ほど研究していたんですが失敗したので完全に心が折れて。 その間にアートラストを作りたい気持ちが増えてきたので、今はそっちを進めてますね。だから今めっちゃ楽しいです。笑

-『アートラスト』といえば靴のオーダーメイド経験のあるトミモリさんならではのアート作品ですよね。
-よろしければアートラストの制作についてもお聞かせください。

アートラストは、簡単に言うと靴の延長です。ラスト(靴の原型となる木型)は絶対的に「足に合わせる」という枠の中で作りますが、前職で毎日様々な形のラストを見ている内に、「足」という枠を越えた表現したいと思うようになり、6年位前から作り始めました。 端的にいうと、「足」という枠のせいで隠れている、ラストの本来評価されるべき造形的部分を表現するために制作しています。 突飛な形に見えるかもしれませんが適当に作っている訳ではなく、オーダーメイドのラストを作る際の押さえるべき計測箇所や制作の上でのポイントを極端に誇張して表現しています。人間の骨の数は約200本で、足の骨の数はその1/4にあたる50本ほどです。それくらい、人の足というのはとても複雑で、靴作りにおける工程は200ほどあり、勉強しなければならないことが多い割にはそこまで評価されていないように思います。 アートラストは、そうした靴作りに携わる靴職人に向けて制作しています。靴職人はみんな器用なので、この作品が造形美を高めるための刺激になったら冥利に尽きます。

-実際に靴職人の方から反応はありましたか?

Facebookで出会ったロシア人の友人が自分の作品写真を参考にラストを作ってくれたのは、テンションがぶち上がりましたね。 やってて良かったな、と心から思いました。

4.自分を出せる場所で

 



-トミモリさんにとって、ARTOCUはどのような場所ですか?

yuhakuがグラデーションを作る仕事だとしたら、ARTOCUは自分っていう感じですね。自分の表現する場所。yuhakuで得たグラデーションを武器に表現の幅は広がりましたが、ARTOCU=グラデーションをやるという感じではないですね。……でもラピスラズリ失敗したからな〜、グラデーションしたほうがいいのかな〜と悩んだりするんですけど。笑
ラピスラズリは熱くなっちゃったので、冷まして待ちます。冷ます工程も大切なので。


-今後はどのような活動をしていきたいですか?

色の探求、色の組み合わせを探していきたいですね。それで日常に彩りというか……暮らしていて喜んでもらえるものが作れたらいいなと思います。
あとは、こういう場所がある会社ってすごいありがたいので、大事にしたいですね。考えてるけど表現させてももらえないとか、評価されないって嫌じゃないですか。それを出せる場所があるというだけで心が安らぐというか。「すごいこれめっちゃいいの思いついた!」と思っても出せないとストレスになったりするんですけど、それが出せるのがARTOCUなので、大事です。


-最後に、トミモリさんにとって「色」とは。

感性の中で1番早く気づく感じがあって、人を感動させるのが速いなって思います。音楽は聴いてから感動するまでに最低でも10秒とか、時間がかかりますよね。でも色は見た瞬間に感動するし、絵画もそうです。だから色と絵画って近いんだなって、改めて思いますね。昔は絵で重要なのは構成だと思っていて、色づかいはそこまで気にしてなかったんですが、yuhakuに入ってから色って力があるなあ、と感じるようになりました。単色でも絵画みたいな感じがあって、見てすぐ感動する。だから色というのは人の心を動かして、感動させてくれるものですね。




ARTOCOLORS.
- COLOR IS IN THE EYE OF THE BEHOLDER -

最後までご覧いただき、ありがとうございました。 

いかがでしたか?
今回は染色職人トミモリのインスピレーションの源を深掘りするインタビューでした。
今後もARTOColors.では職人たちの持つさまざまな”色”をお届けしていきます。
次回もお楽しみに。

お客様と職人を結ぶ色が、暮らしを豊かにする
ARTOCU